Q. 自分が不動産を相続する代わりに、他の相続人にお金を支払う方法はあるのでしょうか?
10年前に亡くなった父から事業を継いで、未だに父名義の自宅兼事務所に私の妻と子供と一緒に住んでいます。
年が離れた弟と折り合いが悪く、弟からは、自宅兼事務所を私の名義にする際は、自分にも権利があるのだからそれ相応のお金を支払ってほしいと言われています。
私が不動産を相続する代わりに、他の相続人にお金を支払う方法はあるのでしょうか?
A. ある相続人が法定相続分を超える額の財産を「現物」で取得する代わりに、法定相続分に満たない財産を相続する他の相続人に対し、不足分相当額の債務を負担する、代償分割という方法があります。
1. 代償分割とは?
遺産分割協議では、亡くなった方の財産の「現物」を、相続人同士で分割するのが原則です。
この点、預貯金などの金銭の場合は、1円単位で容易に分けることができます。
しかし、不動産の場合は、一般的に、容易に分けることはできません。
このような場合に、ある相続人が法定相続分を超える額の財産を「現物」で取得する代わりに、法定相続分に満たない財産を相続する他の相続人に対し、不足分相当額の債務を負担するという方法があります。
この方法を、代償分割と言います。
特に不動産の場合は、共有名義で相続すると後々問題が起こることが多いため、ある相続人が単独名義で不動産を相続し、他の相続人に対して代償金を支払うという方法を取るケースがあります。
【参考記事】
相続で、自宅の名義は誰に変更するのがいい?
2. 代償分割する際の不動産の価格の決め方(不動産の評価方法)
他の相続人に支払う代償金の金額をいくらにするかを決めるためには、相続人同士の合意のもと、不動産の価格を決める必要があります。
不動産の価格については、複数の評価方法があります。
1. 固定資産評価額
市町村が固定資産税を賦課するための基準となる評価額になります。
なお、土地の固定資産評価額は、公示価格の70%を基準に決定されています。
毎年4月~6月頃に、1月1日時点の不動産の名義人宛に市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書中の課税明細書に評価額が記載されています。
2. 相続税評価額
土地は「路線価方式」または「倍率方式」、建物は「固定資産評価額」で評価します。
なお、土地の相続税評価額は、公示価格の80%を基準に決定されています。
【参考記事】
相続税の計算上、不動産はどのように評価すればよいのでしょうか?
3. 公示価格ベース
公示価格とは、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年公示する標準地の価格で、売り手、買い手の双方に売り急ぎ、買い進みなどの特殊な事情がない取引において成立すると認められる価格(正常な価格)になります。
まず対象不動産から最寄りの標準地の公示価格を調べ、次に対象不動産の面積、形状、接面する道路の状況など個別の要因を加味して価格を決定します。
4. 収益還元法
対象不動産が将来生み出すであろうと期待される収益を、ある一定の利回りで割ることで不動産の価格を求める手法になります。
主に、賃貸アパートや賃貸マンションなどの収益物件の評価に用いられます。
5. 時価(不動産会社の査定価格)
周辺の不動産の売出価格や、成約価格をベースに、不動産会社が査定した価格になります。
一般的に、不動産会社は、自社で売却の依頼を取り付けたいため、査定価格が高めになる傾向があるので注意が必要です。
6. 不動産鑑定評価
国家資格者である不動産鑑定士に依頼し、鑑定された価格になります。
鑑定費用は数十万かかりますが、客観的で公正な価格を知ることができます。
ただし、個別の依頼者の意向が評価に反映されることがあるので、相続人が共同で依頼するのが良いでしょう。
代償金をいくらにするのか、また、どの評価方法を採用するかは、相続人同士の合意で自由に決められます。
3. 代償金の支払い方について
他の相続人に支払う代償金の支払い方については、一括で支払う場合と、分割で支払う場合があります。
3-1. 一括で代償金を支払う場合
代償金の支払いを受ける相続人が、分割での支払いではなく、一括での支払いを希望する場合は、現金で代償金を用意する必要があります。
ただし、一般的に、代償金は数百万円など、高額になることが多いです。
預貯金などの手持ちの現金で代償金を全額用意できない場合は、親類にお金を借りるか、金融機関から融資を受けることになります。
親類にお金を借りるときは、贈与と認定されないように、借用書や金銭消費貸借契約書を作成すると良いでしょう。
【参考記事】
親子間で金銭の貸し借りをする際の法律上・税務上の注意点
また、金融機関から融資を受ける際は、現に取引のある金融機関や、最寄りの地域金融機関(地方銀行や信用金庫)に相談すると良いでしょう。
なお、各金融機関によって金利などの条件面が異なるため、複数の金融機関に相談することをお勧めします。
3-2. 分割で代償金を支払う場合
代償金の支払いを受ける相続人が、一括での支払いではなく、分割での支払いを了承した場合は、代償金を分割払いで支払うケースがあります。
ただし、代償金の支払いを受ける相続人にとっては、分割払いの場合は支払遅滞などのリスクがあります。
そこで必要に応じて、
- 代償金債務について連帯保証人を付ける
- 代償金債権について抵当権を設定する
- 代償金債権債務について債務承認弁済契約書を作成し、強制執行認諾文言付きの公正証書にする
ケースがあります。
4. 遺産分割協議書について
代償分割を行う場合は、必ず遺産分割協議書に代償金の金額と支払い方法を明記します。
これを明記していないと、代償金に対して贈与税がかかるからです。
4-1. 一括で代償金を支払う場合の記載例
【一括で代償金を支払う場合の遺産分割協議書への記載例】
相続人Aは、相続人Bに対し、第〇条の遺産取得の代償として金〇〇〇万円の債務を負担することとし、これを令和〇年〇月〇日限り、Bの指定する銀行口座に振込送金の方法により支払う。
4-2. 分割で代償金を支払う場合の記載例
【分割で代償金を支払う場合の遺産分割協議書への記載例】
相続人Aは、相続人Bに対し、第〇条の遺産取得の代償として金〇〇〇万円の債務を負担することとし、これを次のとおり分割して支払う。
(1)令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで 〇〇回
毎月末日限り金〇万円宛
(2)令和〇年〇月〇日限り 金〇万円